2005..11.26 Saturday
第41回大阪薬科大学公開教育講座
薬の作用と副作用
薬物治療における安全管理のために(3)
◆第1講演
くすりと薬剤性血液障害の発生機序〜血液毒性の理解のために〜
国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター毒性部室長
平林容子先生
・血液障害(毒性)の標的臓器・標的細胞
直接破壊と産生障害 放射線事故に見る血液障害の例(事故30日後がトラフ。)
・造血障害の発生機序
放射線影響 線量の少ない順に
晩発効果(後に癌化)→造血障害→腸管障害→中枢神経障害→分子死
ベンゼンによる造血障害と白血病
・造血毒性の種類とその惹起物質
赤芽球系の造血障害-貧血 産生障害と破壊の亢進(溶血性貧血)
顆粒球減少症と汎血球減少症
凝固障害
骨髄異常増殖症と白血病
◆第二講演
小児科領域におけるくすりの副作用
〜効果との対比で考える〜
高槻赤十字病院 医師 小児科部長 林敬次先生
・効果と副作用を比較して薬をどうするかの決定に薬剤師が重要な位置を占める時代になってきた。
・30年前、小児への筋肉注射で筋短縮症の副作用が発現。
効果と副作用で考えると筋肉注射の必要性について疑問→筋肉注射は行わない小児科治療へシフト。
・効果と副作用を比較する研究方法
ランダム化比較試験(RCT)
患者群を2〜3群にわけ、一方には薬剤を、他方には偽薬を使用。両者で発生する効果と副作用を比較する。
ただし、副作用の発生率が極めて低いときはRCTでは検出できないのでケースコントロール研究で副作用出現者とそうでない人の薬の服用歴などを比較する。
NNT Number Needed to Treat
1人に効果を出すために何人に投与する必要があるか
例:1000人に薬を使用して1人死亡を減らすならNNT=1000
NNH Number Needed to Harm
何人に投与すれば1人に副作用が起きるか?
例:100人に薬を使用して10人に嘔吐が増えるなら NNH=10
このように単純に比較できない場合が多々ある。
・効果と副作用?
効果 治療と予防で考えが異なる。救命からすこし気分がよい程度まで。
生命を救うないしそれに順ずる
生命に直結しないことが多いが病態そのものを改善する
症状の軽減
副作用 致死的から少し不快感がある程度まで。
致命的ないし大変な苦痛を与え、かつ頻度が高い
致命的ないし大変な苦痛を与えるがめったに起こらない
よく起こるが苦痛の程度は軽い
治療の延長上の副作用
効果と副作用の組み合わせを具体的に考える
◆効果が生命を救うvs副作用も重大で頻度も高い 抗癌剤が典型例
◆効果が生命を救うvs副作用は重大なものがまれ、ないし軽いものがよく起こる
重症肺炎など細菌感染への抗生物質
◆効果はあるが、軽微な副作用から重篤な副作用もある
テオフィリン 治療に使っている場合は他の薬を使う必要があるので主治医に相談
予防に使っている場合 急に止めてもたいした問題はない
・NSAIDs 効果は痛みを減らすことで多くの人に貢献するが、副作用で死亡する場合もある
胃潰瘍を予防することがRCT(ランダム化比較試験)で証明されているのは
PPI、ミソプロストール、二倍量のH2ブロッカー。
NSAIDによる潰瘍と死亡
アメリカの疫学調査では1997年の死者数では、
白血病:20197人 エイズ:16685人 NSAIDs副作用:16500人
多発性骨髄腫:10503人 喘息:5338人 子宮頸がん:1437人
(New Engl J Med 1999)
喘息死よりNSAIDs潰瘍で死ぬ人が多い。
NSAIDsと小児のライ症候群
1998年12月 厚生省
医薬品等安全性情報no151「ライ症候群とサリチル酸系製剤の使用について」に関連して。
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NSAIDs使用あり |
NSAIDs使用なし |
合計 |
死亡例 |
8人 |
1人 |
9人 |
生存例 |
4人 |
10人 |
14人 |
合計 |
12人 |
11人 |
23人 |
このデータより小児科ではNSAIDsは処方しなくなったが、
耳鼻科、内科、外科ではいまだにNSAIDsを処方だされます。
ぜひ中止するよう問い合わせましょう。代替薬はアセトアミノフェンで。
アセトアミノフェンのデータ
・1994年 アメリカ 10万人当たり死亡率
NSAIDs副作用 6人 アセトアミノフェン副作用 0.233人
・日本で肝障害を起こしたアセトアミノフェン服用量 3g以下 8人 3g台 14人 4g以上 73%
・肝不全をおこしたときのアセトアミノフェンは 単剤製剤 3.8%
合剤 96.3%
・水痘へのアセトアミノフェンの投与
4日間投与群と全く非投与群では第4病日で投与群の方がよりシビア、6病日は有意差なし。
■子供に熱が出たときは、(大阪小児科学会)
・水分を十分に与える
・薄めの服装で室温も高すぎないような涼しい環境で
(,熱の上がりはじめで寒がっているときは着せ、上がりきると薄着にしましょう)
・解熱剤はすぐに使わない
熱さましの薬・坐薬は病気そのものを治す薬ではありません
・子供の様子をよく観察。
顔色が悪くぐったりして元気のないときは医師と連絡を取りましょう
◆効果と副作用の比較が悩ましい薬
タミフル
添付文書上の副作用は 嘔吐24% 下痢20% だが、インフルエンザ自体の症状も含めているので高すぎ。ランダム化比較試験ではプラセボと比較して5%程度高かったに過ぎない。インフルでも吐きますし、普通の抗生物質でも下痢します。
しかし極めてまれに起こる脳症の可能性あり。平均的に1日症状を軽くする効果と、数万人に一人の重大な副作用があるとすればどうかんがえるか?また、世界の使用量の8割を日本で使っている事実を忘れてはいけない。
1歳未満の乳児にはタミフルは禁忌です。脳へ移行し呼吸抑制がおこります。
◆効果がない、もしくはあまりなく、ある程度副作用がある → 副作用疑われたら直ちに中止する
喘息に対する「抗ヒスタミン剤」 オキサトミド・小児と成人喘息患者へ The
Cochrane Database of Systematic Reviews 2003
脳循環代謝改善剤
◆効果はほとんどなく副作用が少ないがあり、副作用以外に問題がある薬剤
風邪に抗生物質は効かない
鼻水はましですけど下痢は増えます。ショックなど副作用の問題、耐性菌産生の問題
したがって風邪に抗生物質の投与は大変低い「効果」を狙っての使用であるから、まず中止。
◆予防的使用
喘息発作予防薬、インフルエンザ予防投与、降圧剤、抗コレステロール剤など。
数週間飲んでNNTが50、100のこともあり、一時的にやめても問題なし。
副作用が疑われたら中止し、その症状の診断をしてから投与を再開しても遅くないのである。
■■終わりに
演者の先生より
「薬剤師の皆さんに薬についての膨大な正しい知識を使っていただき、
薬の持つ効果を最大限に発揮させながら副作用から患者を守っていただくようお願いします。」
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